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香具山の枕詞

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○前々回、「耳成山の地名由来」の話をし、前回、「香具山の地名由来」の話をした。となれば、今回は「畝傍山の地名由来」の話となるはずである。しかし、その前に大事な話を一つしておきたい。

○それは香具山の枕詞についての話となる。実は香具山にはオリジナルの枕詞が存在する。それが枕詞「天降り付く」である。岩波古語辞典には、次のようにある。
      天降り付く[枕詞]
   香具山が天から降下したという伝説によって、「香具山」にかかる。
  天降り付く天の香具山霞立つ春に至れば〈万二五七〉

○実際、日本古典文学大系本「萬葉集一」で、二五七番の和歌の頭注を確認すると、次のようにある。
      天降りつく
   天から降って下界についた。当時香具山にそのような伝説があった。伊予国風土記の逸文に
  その記事がある。→補注。

○ついでに、その補注を覗くと、次のようにある。
      天降りつく
   釈日本紀に引用する伊予国風土記に「倭在天加具山自天天降時、二分而以片端天降於倭国
  以片端天降於此土因謂天山也」とある。このような伝説が当時の人々に信じられていたので、
  天の香具山というような表現が生まれてくる。

○日本古典文学大系本「風土記」で確認すると、『逸文・伊予国』に、次のようにある。
      天山
   伊予国風土記曰 伊予郡 自郡家以東北 在天山 所名天山由者 倭在天加具山 自天天降時
  二分而 以片端者 天降於倭国 以片端者 天降於此土 因謂天山 本也   (釈日本紀巻七)

○日本古典文学大系本「風土記」の頭注には、伊予国逸文「天山」項目が、今井似閑採択とある。今井似閑(1657~1723)は江戸時代の国学者である。つまり、伊予国逸文「天山」項目は、江戸時代に今井似閑に拠って採択されたものであることが判る。

●私たちは、「万葉集」や「風土記」にあると言うと、それだけで、何か、無条件に受け入れてしまうような傾向がある。それは十分注意すべきだし、慎まなくてはならない。どんな時も原文検証は怠ってはならない。そうでないと、とんでもない誤りを犯してしまう。

●この枕詞「天降り付く」がその好例ではないか。「万葉集」が載せ、「風土記」逸文にあると言うだけで、何となく、信用してしまう。辞書で、
  ・香具山が天から降下したという伝説によって、「香具山」にかかる。
などと説明されると、それを信じてしまう。

●その理由のひとつには、相手が古代人だと言う錯覚がある。現代人には相手が古代人だと言うと、どうしても、自然と上から目線で物を見る傾向があるのではないか。自分の方が時代の先端にあると言うことから、そういう傾向がある。しかし、実際はそうではない。少なくとも感性や感覚などに於いては、古代人は現代人より遥かに上位にある。古代人から学ぶ気持ちが無いと、そういうことはまるで感じることはできない。

●枕詞は、そういう意味で、良い学習材料となる。古代人と現代人との感性感覚比べである。枕詞「天降り付く」を天から山が降って来るなどと言う、奇想天外な話など、小学生でも信じない。しかし、古代人ならあり得るとする。そんなおかしな感覚が問題なのである。そこには現代人の驕りが潜んでいる。

◎当古代文化研究所は、日向国の万葉学を自負する。日向国の万葉学では、枕詞「天降り付く」は次のように判断している。

◎前回案内したように、香具山の意は「火の山」であって、「天の香具山」と呼称されるのは、香具山が海に存在するからである。つまり、「天の香具山」は日向国の桜島山に他ならない。日向国の桜島山であれば、枕詞「天降り付く」がきれいに説明できる。そんな場所は世界中探しても、日向国の桜島山以外にはあり得ない。

◎鹿児島県霧島市福山町に、中茶屋公園と言うところがあって、きれいに桜島を望見できる。もともとここは日州街道の茶屋であったところとされる。近くに島津忠将公供養塔や右馬頭石塔碑があったりする。以前、ここを歩いたことがある。
  ・書庫「日州街道」:ブログ『中茶屋公園』
  https://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/36197480.html
  ・書庫「日州街道」:ブログ『日州街道を歩く~福山から牧之原まで~』
  https://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/36215042.html

◎その中茶屋公園に立ち寄った際、地元の方から、次のような話を聞いて驚いた。それは桜島が美しいと言う話から始まった。いろいろと桜島について話していると、その方は福山の方だが、冬になると、福山港には大勢の写真家が訪れると言うのである。何でも、その時期には桜島に太陽が落ちるので、それが何とも見事なのだと言う話であった。

◎そういう話を聞いて、おそらく、その風景が枕詞「天降り付く」の風景であろうと思った。その時の話は、以下のブログに書いている。
  ・書庫「竹島・硫黄島・黒島」:ブログ『天降付く天の香具山』
  https://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/37128661.html

◎それから、枕詞「天降り付く」の風景の話はずっと気になっていた。それでその風景を見に行くことを希求していた。それが実現したのが2012年12月4日(火)のことで、午後4時40分から5時40分くらいまでの感動の時間であった。
  ・書庫「竹島・硫黄島・黒島」:ブログ『枕詞「天降り付く」の真実』
  https://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/37290249.html

◎枕詞「天降り付く」を奈良県橿原市に存在する香具山で説明することは誰にもできない。奈良県橿原市では「天の香具山」さえ、説明不能なのである。それが日向国ではきれいに説明できる。それは香具山が本来、日向国のものであるからに過ぎない。

◎万葉学者先生が悪戦苦闘して大和国の大和三山で畝傍山・香具山・耳成山を説明なさる。しかし、それは徒労と言うしかない。もともと大和三山は日向国のものである。それが大和国で説明できるはずがない。

◎そのことを完璧に証明するのが枕詞「天降り付く」である。古代人の感性感覚に驚く。枕詞「天降り付く」の風景は、現代でも人を感動させずには居ない。私たちは素直にそういう古代人の感性感覚を学ぶべきなのである。それが枕詞「天降り付く」である。

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