○高適の『薊門行五首』詩を案内し続けている。今回は其四になる。
【原文】
薊門行五首【其四】
幽州多騎射
結發重行
一朝事將軍
出入有聲名
紛紛獵秋草
相向角弓鳴
【書き下し文】
薊門行五首【其四】
幽州は騎射の多く、
結發の行を重ぬ。
一朝、將軍を事とすれば、
出入に聲名有り。
紛紛たる秋草に獵すれば、
相向ひて角弓の鳴る。
【我が儘勝手な私訳】
幽州には従軍する兵士がたくさん居て、
その中には少年兵が数多く含まれている。
ある朝、将軍が軍を出そうとする際には、
城塞中が大騒ぎとなり、入り乱れた人声が響く。
何処までも広がる秋の野に狩をしようとすれば、
向こう側の野原から夷狄の角弓の音が聞こえてくる。
○当時の辺塞の様子を丁寧に描写し続けるのが、高適の『薊門行五首』詩だとするしかない。八世紀の中国の辺境など、誰も伝えてはくれない。そういうものを記録し、残してくれているのが高適の『薊門行五首』詩である。
○高適の『薊門行五首・其四』詩を読むと、現代風に言うなら、これは告発詩である。国境警備に配属される兵士の中には、多くの少年兵が含まれていると言うのだ。これは社会問題である。数を揃えるために、稚い少年が駆り出されている。すでに、この時代に、こういう問題が発生していたことに驚く。
○辺塞にも、当然、日常がある。何処にだって四季は訪れるし、年中行事は気になる。そういうものの一つ一つに、ふと、ここが辺境の砦であることが唐突に出現する。そういう世界を高適の『薊門行五首』詩は、垣間見せてくれる。