Quantcast
Channel: 古代文化研究所
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1914

方干:送僧帰日本

$
0
0

○雪竇山文学を探索している時、方干の「登雪竇僧家」詩や「題雪竇禅師壁」詩を見付けた。詩を読むと、方干が敬虔な仏教徒であることが判る。

○その方干に、「送僧帰日本」詩があるのを見付けた。方干(809—888)は唐代の詩人である。方干が見た日本人僧は、おそらく遣唐使船で中国に渡って来たのであろう。それが誰だったのか、非常に気になるところである。

○遣唐使は、舒明2年(630年)から始まって、寛平6年(894年)に廃止されるまで20回ほど実施されている。264年間で20回だから、平均しても、13年に一回渡航したことになる。しかし、その航海は困難を極め、満足な航海がなされたこと自体が稀なほどだった。

○遣唐使船で、多くの日本人僧が中国に渡っている。その中の一人が方干「送僧帰日本」詩の僧なのであろう。それはひどく気になる。

○方干「送僧帰日本」詩は、次の通り。

  【原文】
      送僧帰日本
         方干
    四極雖雲共二儀
    晦明前后即難知
    西方尚在星辰下
    東域已過寅卯時
    大海浪中分国界
    扶桑樹底是天涯
    満帆若有帰風便
    到岸猶須隔歳期

  【書き下し文】
      僧の日本に帰るを送る
           方干
    四極は雲かなりと雖も、共に二儀、
    晦明前后も、即ち知り難し。
    西方尚ほ在り、星辰の下、
    東域已に過ぐ、寅卯の時。
    大海の浪中、国界を分かち、
    扶桑樹の底、是れ天涯。
    満帆の帰風の便有るが若きも、
    岸に到るは、猶ほ須らく歳期を隔つべきがごとし。

  【我が儘勝手な私訳】
    世界の果てはどんなに遠いとは言っても、それは天地の中に存在する。
    夜昼の前後さえ、そこではすぐには容易に理解し難い。
    西方世界では、まだ夜が始まったばかりだと言うのに、
    東方世界では、すでに夜明けが始まろうとしている。
    東海の大海の中に、日本国は存在し、
    日本国は扶桑樹の下にあって、まさに日本国は世界の東の涯なのである。
    日本国へ帰るには、満帆の順風がどんなに吹いてくれたとしても、
    日本国へ到るには、それでも、およそ一年の歳月を当然覚悟しなくてはならないだろう。

○方干「送僧帰日本」詩を読むと、どんなに日本が中国から遠いかが判る。そのことを方干は、
  四極雖雲共二儀     四極は雲かなりと雖も、共に二儀、
と表現し、
  晦明前后即難知     晦明前后も、即ち知り難し。
と述べる。何とも遠い遙かな国が日本なのである。

○その日本へ帰るには、
  満帆若有帰風便     満帆の帰風の便有るが若きも、
だったとしても、
  到岸猶須隔歳期     岸に到るは、猶ほ須らく歳期を隔つべきがごとし。
の時間を要する。

○方干がこうやって、何とも立派な詩を創って、日本人僧を送別してくれているのを読むと、何とも嬉しい気になる。それは今から1200年も昔のことなのに。

○16世紀にも、王陽明が了菴和尚の為に立派な序文をものしている。
  書庫「伊地知季安「漢学起源」を読む」:ブログ『王陽明と交流のあった日本人』
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/13154836.html

○古くは、王維が阿倍仲麻呂(698~770)へ贈った「送秘書晁監還日本國」詩もある。

  送祕書晁監還日本國    祕書晁監の日本國に還るを送る
       王維
    積水不可極        積水極むべからず、
    安知滄海東        安くんぞ滄海の東を知らん。
    九州何處遠        九州何れの處か遠き、
    萬里若乘空        万里空に乗ずるが若し。
    向國惟看日        国に向かって惟だ日を看、
    歸帆但信風        帰帆は但だ風に信すのみ。     
    鰲身映天        鰲身は天に映じて黒く、
    魚眼射波紅        魚眼は波を射て紅なり。
    樹扶桑外        樹は扶桑の外、
    主人孤島中        主人は孤島の中。
    別離方異域        別離方に域を異にす、
    音信若爲通        音信若爲ぞ通ぜんや。

○王維の「送秘書晁監還日本國」詩は、なかなか格調高いものであるけれども、方干の「送僧帰日本」詩のような情愛を感じない。方干にとって、この日本人僧は相当親しい存在だったに違いない。

○また、方干には、日本に関して、次のような詩もある。

    送人遊(一作之)日本国
       方干
    蒼茫大荒外
    風教即難知
    連夜揚帆去
    経年到岸遅
    波涛含左界
    星斗定東維
    或有帰風便
    当為相見期

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1914

Trending Articles