○中国の揚州、大明寺の売店で購入した「揚州詩咏」(李保華著)を読んでいる。
となっている。その「£何検隋代」の扉ページには、楊広の「江都宮楽歌」詩の、
揚州旧処可淹留
台榭高明復好遊
句を載せ、「唐代」の扉ページには、徐凝の「憶揚州」詩の、
天下三分明月夜
二分無頼是揚州
句を載せている。
○続く「A彗紂廚糧皀據璽犬鮠襪里秦観「望海潮・広陵懐古」詞の、
星分牛斗,彊連淮海,揚州万井提封。
花発路香,鴬啼人起,珠簾十里東風。
豪俊気如虹。
の句である。「揚州詩咏」の編者、李保華がそれ程、この句を気に入っていることが判る。今回は、その秦観「望海潮・広陵懐古」詞を案内したい。
【原文】
望海潮・広陵懐古
秦観
星分牛斗,彊連淮海,揚州万井提封。
花発路香,鴬啼人起,珠簾十里東風。
豪俊気如虹。
曳照春金紫,飛蓋相従。
巷入垂楊,画橋南北翠煙中。
追思故国繁雄。
有迷楼掛斗,月観横空。
紋錦制帆,明珠濺雨,寧論爵馬魚龍。
往事逐孤鴻。
但乱雲流水,縈帯離宮。
最好揮毫万字,一飲拚千鐘。
【書き下し文】
望海潮・広陵懐古
秦観
星は牛斗に分かち、彊くは淮海に連なり、揚州は万井を提封す。
花は香りを路に発し、鴬の啼き人の起き、珠簾十里に東風あり。
豪俊の気は虹の如し。
春に金紫を曳照し、飛蓋の相ひ従ふ。
巷に垂楊の入り、画橋は南北の翠煙の中。
故国の繁雄を追思す。
迷楼の斗に掛かる有りて、月観は空に横たはる。
紋錦の帆を制り、明珠の雨と濺ね、寧ろ爵馬魚龍を論ぜん。
往事、孤鴻を逐ふ。
但だ雲は乱れ水は流れ、離宮は縈帯す。
最も好きは万字を揮毫し、一飲に千鐘を拚ずること。
【我が儘勝手な私訳】
星座なら牛宿星と斗宿星との間、揚州は北に淮河を置き、
南は大海へと連なり、揚州は八万余戸の多きに達す。
春には花が揚州の町を香りで充たし、鴬が鳴き、人々が起きる朝、
珠簾が十里も続く揚州には、颯爽と春風が吹いて来る。
揚州には多くの才智傑出の人材が数え切れず、気度宏偉の人才を輩出している。
貴人の華麗飄曳の服飾は春光に照り映え、春風に幕を翻して馬車が何台も走る。
揚州の町中には枝垂れ柳の並木があって、
彫飾華麗な橋梁が揚州の各所に雲霧に烟って見える。
故郷揚州の繁栄を追慕せずにはいられない。
隋の煬帝が建てた迷楼に斗宿星が架かって、月観亭はその横に浮かんでいる。
隋の煬帝が錦緞で船帆を作り、明珠で雨雹に擬したような、
そういう珍奇玩好をここに論じたいのではない。
昔、ここに一羽の鴻が居たことを思わずには居られない。
但だそれから、雲は乱れ飛び、川は流れ去り、隋の煬帝の離宮も見る影もない。
何と言っても欧陽脩のように、ここを訪れたら、
一度に万字を揮毫し、一度の宴会で、千杯の盃を交わすことが最良ではないか。
○「揚州詩咏」の編者、李保華が案内するように、揚州を紹介するのに、秦観の「望海潮・広陵懐古」詞の、
星分牛斗,彊連淮海,揚州万井提封。
花発路香,鴬啼人起,珠簾十里東風。
豪俊気如虹。
句以上の表現は、見付からないのではないか。何とも立派な表現となっている。
○実際、揚州の町を訪問すれば判ることだが、揚州の町の中心に建つのは文昌閣である。つまり、文昌閣が揚州のシンボルである。それ程、揚州は文化の町である。
○揚州では、隋の煬帝も忘れることは出来ない。しかし、隋の煬帝以上に揚州を代表するのは、揚州文化だと秦観の「望海潮・広陵懐古」詞は説く。「揚州詩咏」の編者、李保華は、それに同調していることが判る。
○最後の最後に、秦観が「望海潮・広陵懐古」詞で案内するのは、欧陽脩の「朝中措・平山堂」詞の一節、
文章太守 揮毫万字 一飲千鐘。
行楽直須年少 尊前看取衰翁。
を、
往事逐孤鴻。
但乱雲流水,縈帯離宮。
最好揮毫万字,一飲拚千鐘。
と説く。
○22013年10月17日、2014年6月21日と、二回揚州を訪問した。出掛けてみて判ることだが、秦観が「望海潮・広陵懐古」詞で案内するように、揚州は文化の町である。そういうことを、秦観の「望海潮・広陵懐古」詞で再認識させられた。