Quantcast
Channel: 古代文化研究所
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1914

白居易:香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁

$
0
0


○白居易の「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩も、廬山を彩る詩として、名高い。ただ、中国と日本では、どうも、白居易の「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩が別物らしい。
○中国で、白居易:「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩と言えば、次の詩がヒットする。

    香鑪峯下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁五首
    五架三間新草堂
    石階桂柱竹編牆
    南簷納日冬天暖
    北戸迎風夏月凉
    灑砌飛泉纔有點
    拂䆫斜竹不成行
    來春更葺東廂屋
    祇閤蘆簾着孟光

○もともと、白居易:「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩は、五首が存在する。その冒頭詩が、上記の『五架三間新草堂』詩である。だから、中国では、白居易:「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩と言えば、この詩だと言うことになる。当たり前のことである。

○ただ、日本では、白居易:「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩と言えば、何と言っても、次の詩であろう。

  【原文】
    香鑪峯下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁
               白居易
    日高睡足猶慵起
    小閤重衾不怕寒
    遺愛寺鐘欹枕聽
    香鑪峰雪撥簾看
    匡廬便是逃名地
    司馬仍爲送老官
    心泰身寧是歸處
    故郷何獨在長安

  【書き下し文】
    香鑪峰下、新たに山居を卜し、草堂初めて成る、偶、東壁に題す。
                 白楽天
    日高く睡り足るも、猶ほ起くるに慵く、
    小閣に衾を重ねて、寒を怕れず。
    遺愛寺の鐘は、枕を欹てて聽き、
    香鑪峰の雪は、簾を撥げて看る。
    匡廬は便ち是れ、名を逃るるの地、
    司馬は仍ほ老いを送るの官爲り。
    心泰く身寧きは、是れ歸する處、
    故は何ぞ獨り長安にのみ在らんや。

  【我が儘勝手な私訳】
    廬山の西部、香炉峰の麓に、新しく山居を計画し、その草堂がやっと出来上がった。
    その草堂の東壁に、偶々、記念として書いた詩。
                       白居易
    日が高くなるまで寝て、睡眠は十分足りたのだが、冬の朝は起きるのが何時も億劫である。
    新たに成った草堂は小屋ながら布団を重ねて寝たので、寒さも全く感じず、快適であった。
    香炉峰の向かい側にある遺愛寺の朝を告げる鐘の音を、寝たままで聴いたし、
    香炉峰の雪だって、簾を持ち上げると、布団の中から見ることが出来る。
    此処、廬山は隠逸の住処だから、世間を離れて住むのに最も似つかわしい地だし、
    私の役職、司馬(長官補佐)だって、老人が余生を送るのにふさわしい官職だ。
    心が安泰にして、身が安寧だという境遇は、本来、人が最も望むところである。
    安住の地、故郷と言うのは、どうして都長安だけに在ろうか。この草堂こそが私の故郷なのだ。

○正確には、『日高睡足猶慵起』詩は、白居易:「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩の四番目に位置する詩である。ただ、日本では、清少納言「枕草子」に『香炉峰の雪』(第二百九十九段)があって、広く人口に膾炙している。

      香炉峰の雪(「枕草子」:第二百九十九段)
   雪のいと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭びつに火おこして、物語などして集まりさぶ
  らふに、「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上
  げたれば、笑はせたまふ。人々も「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそよらざりつれ。
  なほ、この官の人にはさべきなめり。」と言ふ。

○清少納言の自慢話が何とも鼻持ちならない。それでも、この話に拠って、日本では、白居易の「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩と言えば、『日高睡足猶慵起』詩と言うことになってしまった。

○「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩には、白居易の草堂の落成を喜ぶ気持ちと、江州(現江西省九江市)の司馬に左遷された悲哀が混在している。白居易五十四歳のことである。任地、杭州も白居易にとって理想郷だったが、廬山もまるで同じである。白居易の杭州については、以下を参照されたい。
  ・書庫「白居易の愛した佛都・杭州」:34個のブログ
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/folder/1219352.html?m=l&p=1

○前回案内した蘇軾「題西林壁」詩は、西林寺で詠まれた詩であったが、その奥に存在するのが東林寺であり、香炉峰である。従って、「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」詩の香炉峰は、北香炉峰の謂いである。蘇軾が西林寺で「題西林壁」詩を詠じたのは、白居易のおよそ二百年後のことである。当然、蘇軾の念頭には、先人白居易への畏敬と憧憬がある。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1914

Trending Articles