○高適の詩案内を続けているが、今回は高適の『九曲詞三首』である。
【原文】
九曲詞三首
高適
其の一
許國從來徹廟堂
連年不爲在疆塲
將軍天上封侯印
御史臺中異姓王
【書き下し文】
九曲の詞、三首
高適
其の一
國に許されて從來、廟堂に徹し、
連年、疆塲に在るを爲さず。
將軍は天上に侯印を封じ、
御史は臺中に、王と姓を異とす。
【我が儘勝手な私訳】
国に仕えるようになって、このかた、朝廷に務め、
長年、辺境の地に足を踏み込むことさえなかった。
黄河の上流、九曲の地では、将軍が天子から任命されていて、
秘書官は御史台にあって、王姓を名乗っている。
【原文】
九曲詞三首
高適
其の二
萬騎爭歌楊柳春
千塲對舞繡騏
到處盡逢歡洽事
相看總是太平人
【書き下し文】
九曲詞三首
高適
其の二
萬騎、爭ひて歌ふ、楊柳の春、
千塲、舞に對せば、騏の繡。
到る處、盡く逢ふ、歡洽の事、
相看るは總て是れ、太平の人。
【我が儘勝手な私訳】
九曲には萬騎の軍勢が参集して、競って楊柳の春歌を歌っている、
九曲にはあちこちで舞踊が催されるので、立派な馬が集まっている。
九曲には到るところで、様々な歓楽事が開催されているのに出逢う、
九曲には天下泰平の人々が大勢参集し、歌舞音曲を楽しんでいる。
【原文】
九曲詞三首
高適
其の三
鐵騎行鐵嶺頭
西看邏逤取封侯
青海只今將飲馬
黄河不用更防秋
【書き下し文】
九曲詞三首
高適
其の三
鉄騎は横行す、鉄嶺の頭り、
西のかた邏逤を看て封侯を取らん。
青海、只今、將に馬に飲せんとす、
黄河、更に秋を防ぐに用ゐず。
【我が儘勝手な私訳】
九曲では、武装した騎馬が鉄嶺山の辺りを闊歩している、
九曲の西の彼方、拉薩を望み見ながら、諸侯となる手柄を立てんと奮い立つ。
九曲は青海の畔にあって、今まさに軍馬に水を飲ませるところになろうとしている。
九曲は黄河の別称であって、もはや黄河を夷狄から防ぐ堀と考える必要はない。
○九曲は黄河の別称である。夷狄を防ぐ要塞としては、万里の長城が有名だが、中国の大河、黄河自体が夷狄を防ぐ大事な堀であった。実際、黄河は中原の北に位置し、中国を防衛する上では重要な防衛線でもあった。
○中国の検索エンジン「百度」の『百度百科』が案内する黄河九曲は、次の通り。
黄河九曲
黄河,中国古代称河,发源于中国青海省巴颜喀拉山脉,流经青海、四川、甘肃、宁夏、内蒙古、陕
西、山西、河南、山东9个省区,最后于山东省东营市垦利县注入渤海,全长5464公里,是中国第二长
河,仅次于长江,也是世界第五长河流。黄河在青海境内自上而下流经曲玛莱、玛多、甘、达日、久
治、玛沁、河南蒙旗、同、贵南、兴海、共和、贵、尖扎、化隆、循化、民和十六县,流程1455多
公里,其间辟有许多黄河古渡口。“黄河九曲”指流经的九个省区,而这些省区又由其中的各个渡口而
闻名。
https://baike.baidu.com/item/黄河九曲/3357045?fr=aladdin
○高適の『九曲詞三首』詩も、連作であって、高適は、其の第一詩から第二詩、第三詩と次第に精神を高揚させていく手法を見事に使っている。高適の『九曲詞』詩と言うと、第三詩だけが取り上げられることが多いが、それでは不十分であることは言うまでもない。