○前回、陳子昂の『度荊門望楚』詩を案内した。引き続き、陳子昂の『晩次樂鄉縣』詩を紹介したい。
【原文】
晩次樂鄉縣
陳子昂
故鄉杳無際
日暮且孤征
川原迷舊國
道路入邊城
野戍荒煙斷
深山古木平
如何此時恨
噭噭夜猿鳴
【書き下し文】
晩に樂鄉縣に次す
陳子昂
故鄉は杳として無際、
日暮れて且に孤り征かんとす。
川原にて舊國を迷ひ、
道路にて邊城に入る。
野戍は荒れ、煙の斷ち、
深山は古木の平らかなり。
此の時の恨みを如何せん、
噭噭として夜、猿の鳴く。
【我が儘勝手な私訳】
夜に、湖北省荊門の樂鄉縣に停留した時の詩
陳子昂
故郷から遥か遠く離れた、無辺の土地を、
夕暮れ時に、今将にたった一人でやって来たことである。
山川原野を彷徨い歩くうちに、故郷を見失い、
道に従って進むと、辺境の小さな町に辿り着いた。
城塞は荒れ果て、守備兵も見えず、
周囲の山々には、巨木が生い茂っている。
この時の嘆きをどのように表現しようか、
甲高い声で夜に猿が鳴く声をただ聞くばかりである。