○前回、王勃「滕王閣序・解 廚魄篤發靴拭今回は、それに引き続き、王勃の「秋日登洪府滕王閣餞別序」の第2節を案内したい。
【原文】
秋日登洪府滕王閣餞別序【第2節】
王勃
時維九月,序屬三秋。
潦水盡而寒潭清,煙光凝而暮山紫。
儼驂騑於上路,訪風景於崇阿。
臨帝子之長洲,得仙人之舊館。
層臺聳翠,上出重霄。
飛閣流丹,下臨無地。
鶴汀鳧渚,窮島嶼之縈廻。
桂殿蘭宮,即岡巒之體勢。
【書き下し文】
秋日登洪府滕王閣餞別序【第2節】
王勃
時は維れ九月、序は三秋に屬す。
潦水は盡き、寒潭は清く、煙光は凝り、暮山は紫なり。
儼かに上路を驂騑し、訪かに崇阿を風景す。
帝子臨むところの長洲、天人得るところの舊館。
層巒聳翠、上は重霄に出づ。
飛閣流丹、下を臨むに地無し。
鶴汀鳧渚、島嶼の縈回して窮まる。
桂殿蘭宮は、即ち岡巒の體勢なり。
【我が儘勝手な私訳】
季節はちょうど九月で、秋も季秋の九月である。
雨後の貯水も既に枯渇し、氷った川は非常に清らかで、
夕霧は深く、夕暮れの山は紫色に染まっている。
その中を、粛々と立派な道を駕車で駆け馳せて行く、
遙か彼方には高々とした山峰を眺め遣りながら。
嘗て李元嬰が臨んだであろう贛江の砂州の畔に、
李元嬰が営んだ滕王閣は建っている。
その滕王閣は九層もの高楼で、幾つもの屋根庇を備えて、
高々と大空へ突き出ている高楼である。
滕王閣の上層へ登り、紅漆の回廊に立って、
直下を見ようとするのだけれも、大きな軒が広がり、見ることは出来ない。
贛江を望み遣ると、鶴が汀に、野鴨は渚に群れ居て、
贛江の流れは蛇行しながら滔々と流れ下って行くのが見える。
その贛江の畔に建っている滕王閣は、まるで自然の高丘のようである。
○王勃の「秋日登洪府滕王閣餞別序」が、うんざりするほど難解なのにすっかり疲れる。しかし、誰かが案内しない限り、名文も世に出ることは無い。こういう名文が存在することを万人に知って欲しい。
○実は、今回の旅行で、南昌の滕王閣へ上ろうと思い至った契機は、杜牧の「張好好詩」を読んだことに拠る。杜牧の「張好好詩」に於ける張好好は、絶世の美人である。こんな美人が居る南昌の滕王閣へ出掛けないわけには行かない。ちなみに、杜牧の「張好好詩」は、以下のブログで案内している。
・書庫「鑑真和上の揚州」:ブログ『杜牧:張好好詩』
http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/38834715.html
君為豫章姝,十三才有餘。 君は豫章の姝爲りて、十三才有餘。
翠鳳生尾,丹葉蓮含跗。 翠はし鳳は尾を生じ、丹葉は蓮跗を含む。
高閣倚天半,章江聯碧虚。 高閣は天半に倚り、章江は碧虚に聯なる。
此地試君唱,特使華筵舖。 此の地に君の唱ふを試み、特に華筵を鋪かしむ。
【我が儘勝手な私訳】
張好好は豫章出身の美人であり、それも十三歳と頗る若い。
木が若葉を出し、鳳凰が尻尾羽根を出し、蓮の若葉がまだ萼を巻いている頃である。
滕王閣は中天に聳え建ち、章江は天と繋がる程、広々としている。
その滕王閣で、張好好の歌声を聞こうと、わざわざ豪華な宴席が開かれた。
○南昌の滕王閣へ上ったのは、2014年6月19日の午後3時15分であった。残念ながら、張好好には会えなかったが、滕王閣は頗る立派で、堂々としていた。王勃が眺め、杜牧や張好好が眺めたであろう同じ風景を見ることが出来たことが嬉しかった。