○中国の検索エンジン百度の百度百科が案内する北固山項目に、『诗韵北固』の項目があって、3首が掲載されているのが気になった。今回案内するのは、その第二首、辛棄疾の「南郷子・登京口北固亭有懐」である。
【原文】
南郷子:登京口北固亭有懐
辛棄疾
何処望神州、満眼風光北固楼。
千古興亡多少事,悠悠。
不尽長江滾滾流。
年少万兜鍪、坐断東南戦未休。
天下英雄誰敵手?曹劉。
生子当如孫仲謀。
【書き下し文】
南郷子:京口の北固亭に登り、懐有り
辛棄疾
何れの処かと、神州を望めば、眼に満つ、北固楼の風光。
千古の興亡は多少の事と、悠悠たり。
長江の滾滾たる流れは尽きず。
年少の万兜鍪、東南に坐断して、戦さは未だ休まず。
天下の英雄は誰か敵手、曹劉。
子を生さば、当に孫仲の謀に如くべし。
【我が儘勝手な私訳】
京口北固亭から、洛陽のある中原は何処かと北を望めば、
視界には広大な東海と長江の流れが広がっていた。
大昔から現在に至るまでの六朝の栄華盛衰さえ、何事も無かったかのように、
自然の風景は悠々と、何の変哲も無いかのように、存在する。
長江の滔々たる流れは、不変で、昔と同じように流れている。
弱冠十九歳の若者孫権は楚国の萬兵を率い、
長江中流域に居座り、魏国の曹操や蜀国の劉備との戦いに明け暮れた。
天下の英雄、孫権の好敵手は誰か、
それは魏国の曹操であり、蜀国の劉備である。
かの曹操をして、「子供が居たら、孫権のような思慮分別のある子が欲しい」と、
言わしめた。それが楚国の英雄、孫権である。
○日本のウィキペディアフリー百科事典が案内する辛棄疾は、次の通り。
辛棄疾
辛棄疾(しんきしつ、1140年(金の天眷3年・南宋の紹興10年) — 1207年(開禧4年))は政治
家・詞人。字は幼安、号は稼軒(かけん)、歴城(現在の山東省済南市)の人。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%9B%E6%A3%84%E7%96%BE
○しかし、やはり、中国の検索エンジン百度『百度百科』の方が遙かに詳しい。
辛弃疾(南宋词人、文学家)
辛弃疾(1140年5月28日-1207年10月3日),字幼安,号稼轩,山东东路济南府历城县(今济南市历
城区遥墙镇四凤闸村)人,中国南宋豪放派词人,人称词中之龙,与苏轼合称“苏辛”,与李清照并称
“济南二安”。辛弃疾生于金国,少年抗金归宋,曾任江西安抚使、福建安抚使等职。追赠少师,谥忠
敏。有词集《稼轩长短句》,现存词600多首,强烈的爱国主义思想和战斗精神是他的词的基本思想内
容。著名词作《水调歌头》(带湖吾甚爱)、《摸鱼儿》(更能消几番风雨)、《满江红(家住江南)》、
《沁园春》(杯汝来前)、《西江月·夜行黄沙道中》等。其词艺术风格多样,以豪放为主,风格沉雄
豪迈又不乏细腻柔媚之处。其词题材广阔又善化用前人典故入词,抒写力图恢复国家统一的爱国热情,
倾诉壮志难酬的悲愤,对当时执政者的屈辱求和颇多谴责;也有不少吟咏祖国河山的作品。著有《美芹
十论》与《九议》,条陈战守之策。由于与当政的主和派政见不合,后被弹劾落职,退隐山居,公元12
07年秋季,辛弃疾逝世,年68岁。
http://baike.baidu.com/subview/2982/11994917.htm?fr=aladdin
○『南郷子』は、詞牌の名である。『百度百科』に、次のようにある。
南乡子(词牌名)
南乡子,词牌名 ,唐教坊曲。《金奁集》入“黄钟宫”。又名【好离乡】、【蕉叶怨】,唐教坊曲,
原为单调,有二十七字、二十八字、三十字各体,平仄换韵。单调始自后蜀欧阳炯。南唐 冯延巳始
为双调。冯词平韵五十六字,十句,上下片各四句用韵。另有五十八字体。双调五十六字,前后阕各四
平韵,一韵到底。
http://baike.baidu.com/subview/129336/9179723.htm?fr=aladdin
○中国には、各種の詞牌が存在する。本ブログでは、以前、岳飛の「滿江紅・登黄鶴樓有感」や、王安石の「桂枝香:金陵懷古」、薩都刺の「滿江紅:金陵懷古」などを案内している。
・書庫「 岳陽・武昌」:ブログ『岳飛:滿江紅・登黄鶴樓有感』
http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/38277469.html
・書庫「六朝古都:南京」:ブログ『桂枝香:金陵懷古』
http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/38749170.html
・書庫「六朝古都:南京」:ブログ『滿江紅:金陵懷古』
http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/38751489.html
○辛棄疾の「南郷子・登京口北固亭有懐」も、なかなか味わい深い。何しろ、江南の地にあっては、孫権は第一の英雄である。それに、江南地方の六朝時代の幕開けも孫権から始まる。そういうことを実に上手く表現しているのが辛棄疾の「南郷子・登京口北固亭有懐」である。
○孫権の御陵は、蒋陵と言い、南京に存在する。今回の旅行で参詣してきた。以下に記録しているので、参照されたい。
・書庫「六朝古都:南京」:ブログ『南京:孫権の蒋陵』
http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/38666655.html
・書庫「西楚覇王霊祠」:ブログ『東呉大帝孫権記念館:蒋陵』
http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/39106075.html
○私たち、日本人が判官義経や太閤秀吉を愛するように、中国では孫権や岳飛が愛されている。辛棄疾の「南郷子・登京口北固亭有懐」を読むと、そのことがよく判る。