○杭州市の西、余杭鎮の余杭站から、径山寺行きのバスが発車したのは朝の9時であった。余杭站には、マイクロバスがたくさん停車していたが、径山寺行きは大型バスであった。乗客10名ほどのうち、5人は男の老人グループである。少なくとも、完全な観光客らしき者は、私を除いて一人も居ない。
○乗客の中に、キャノン製の大型望遠レンズと三脚を担いだ中年男子が一人居た。痩せ型で、口髭がある男で、どことなく日本人ではないかと思えたが、唐突に話し掛けるのも躊躇われた。
○バスは中国の田園風景の中をのんびり走って行く。道は舗装されてはいるけれども、凹凸が激しく、バスは揺れが激しいし、まるで簡易舗装のレベルである。
○これまで、中国の郊外バスには結構乗っている。舟山縦断や寧波から河姆渡遺跡、上虞から余姚など、何回思い出しても楽しい旅ばかりであった。
○ただ、今回の余杭鎮から径山寺までのバスの旅は、それらと聊か趣が異なる気がした。径山寺行きのバスの乗客は全員が参詣客なのである。途中で乗降する人はほとんど居ない。
○延々と続く田園風景の中をバスはひたすら走る。途中、並木道が各所に見られた。中国独特の風景である。次第次第に山が近くなるのを感じながらの道中であった。
○1時間ほど走ったら、バスは左折して、山間へと入って行った。この付近が径山鎮なのであろう。余杭站から径山鎮行きのバスは、別にたくさんあるようである。ここから先がいよいよ本格的な山道となっている。
○山は岩山らしい。松の木や竹の群生しているところが多く、その風景は私が住んでいる南九州と、ほぼ同じ風景である。バスは少しずつ高度を上げながら走って行く。
○30代と覚しき運転手さんは、運転が慎重で、曲がり角では十分スピードを落として回るから、揺れが少ない。たいへんな山道だったのに、それほど緊張感を抱くことがない。
○道は2車線ほどの広さで、それほど狭いものでもない。急な登りは少なかったが、とにかく先が長いのに疲れた。径山鎮から山道を1時間ほど走って、ようやく、径山寺に到着した。
○余杭站を出たのは9時であったが、径山寺到着は11時であった。ちょうど、2時間を要して径山寺に着いたわけである。その前に杭州から余杭鎮までの道中もある。兎に角、径山寺は遠い。
○径山寺は、ほぼ山頂に近いところに存在する。眺望が利けば、最高の景色が見られるはずなのだが、中国独特の靄が出ていて、残念ながら遠くは霞んでいて、見えない。それに径山寺近辺は山ばかりであるから、山しか見えないのかも知れない。
○到着した径山寺前広場は舗装されたところで、数軒の宿と土産物店が立ち並んでいる。どの建物も真新しいものばかりであった。次回、案内するけれども、径山寺そのものが新しく再建され、それに併せて、これらの店や宿が建てられたものであるようだった。
○広場の隅にバスは駐車した。どうやら、このバスがそのまま13時20分に折り返すようだった。運転手さんは近くの店に入って行った。私たちはバスを降り、数軒の線香売りの店が立ち並ぶ前を通って、径山寺へ向かうこととなる。
○バスで来た私たち以外に、数台の自家用車が停まっていて、先に参拝しているようであった。いよいよ念願の径山寺詣でである。