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崔致遠:智異山花開洞

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○長々と崔致遠の詩を案内している。これまで、『酬楊贍秀才送別』詩、『秋夜雨中』詩、『江南女』詩、『寓興』詩、『古意』詩、『蜀葵花』詩、『夢中作』詩と紹介し、今回案内するのは、崔致遠の『智異山花開洞』詩である。

○まだまだ崔致遠の詩には傑作が幾らでも存在する。しかし、ここでは、本来、揚州文学を扱うことが目的であるから、これ以上、崔致遠の詩に深入りするのは、止めておきたい。崔致遠の詩八編を案内することに拠って、崔致遠がどういう詩人であったかくらいは、紹介できたのではないか。

○時間が許せば、一回は崔致遠の作品を通して読んでみたい。崔致遠は読むに相応する優れた詩人であることは、彼の詩を読んで納得される。人を惹き付けて止まない世界を崔致遠の詩が構築していることは間違いない。

  【原文】
      智異山花開洞
        崔致遠
    東国花開洞
    壷中別有天
    仙人推玉枕
    身世倏千年
  【書き下し文】
      智異山、花の開く洞
        崔致遠
    東国に、花開く洞あり、
    壷中に、別に天の有る。
    仙人は、玉の枕を推き、
    世に身を倏すること千年。

  【我が儘勝手な私訳】
      朝鮮智異山、花の咲く寺
    朝鮮半島に、美しい花の咲く寺がある、その名を智異山華厳寺と言い
    その智異山華厳寺には、俗界と切り離された仙境が存在する。
    その智異山華厳寺には、俗世を離れた仙人たちが生活し、
    悠久の時でさえ、まるで瞬時であるかのように生きている。

○崔致遠の『智異山花開洞』詩は、前回案内した『夢中作』詩同様、五言絶句で、字数僅か二十字に過ぎない。その中で、崔致遠の故地、朝鮮半島の慶州に存在する智異山華厳寺を、実に見事に詠い挙げているのに感心する。智異山華厳寺は、やはり、こういうふうに詠い挙げられるのが相応しい。

○今から十年以上前に、職場の親睦旅行で、韓国新幹線の旅をしたことがある。その時、慶州にも立ち寄り、智異山華厳寺へ参詣したことを、懐かしく思い出した。智異山華厳寺は、恐ろしいほど山の中であったことを、今でも、よく記憶している。

○崔致遠は、その智異山華厳寺を壷中天として案内する。道士ならではの表現である。当時の修行僧が目指しているのは、間違いなく仙人となることである。だから、崔致遠は、「智異山花開洞」が洞天だとも言う。

○此の世で最も崇高な生き方が、宗教に生きることであることを、当時の人々は本気で信じていた。俗世の垢に塗れて暮らす私たちには、想像も付かない世界の話である。宮澤賢治が「雨ニモマケズ」で、
  慾ハナク
  決シテ瞋ラズ
  イツモシヅカニワラッテヰル

  アラユルコトヲ
  ジブンヲカンジョウニ入レズニ

  ミンナニデクノボートヨバレ
  ホメラレモセズ
  クニモサレズ

  サウイフモノニ
  ワタシハナリタイ
と希求するものが、崔致遠の理想であったに違いない。

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