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李郢:寒食野望

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○「寒食野望」詩題については、前に熊孺登の「寒食野望」詩を紹介している。
  ・書庫「無題」:ブログ『熊孺登:寒食野望』
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/40322883.html

○そう言えば、「野望」も、中国語と日本語ではまるで意味が異なる。日本語で「野望」と言えば、
  ・【野望】やぼう :分不相応な大きな望み。 「 -を抱く」 「 -をくじく」
とするのが普通だろう。それに対して、中国語では、
  ・野望:野原の眺め
とするのが一般的ではないか。

○面白いことに、中国の検索エンジン百度の百度百科が案内する「野望」は、次の通り。

      野望(日语词语)
   “野望”是日语的一个词语。日文为“やぼう”。
      中文名: 野望      外文名: やぼう
      语言: 日语       含义: 不合身份、离谱的愿望
  【含义包括】:
    1. 不合身份、离谱的愿望;野心、奢望。
      有日本KOEI(光荣)公司发行的著名游戏作品《信长の野望》。
      ・―を抱く   ・―をくじく
    2. 欣赏野原美丽的景色。
      ・山川―の所、烟霞の夕を见て〔出典:辅亲集〕
  http://baike.baidu.com/subview/383525/11401844.htm

○中国語にも「野望」は存在するのに、わざわざ日本語の「野望」を中国の『百度百科』が案内しているのがおかしい。それほど、日本語の「野望」は特別な意味を有するのだろう。

○李郢の「寒食野望」詩は、次の通り。

  【原文】
      寒食野望
         李郢
    舊墳新隴哭多時
    流世都堪幾度悲
    烏鳥亂啼人未遠
    野風吹散白棠梨

  【書き下し文】
      寒食野望
         李郢
    旧墳新隴、多き時に哭す、
    流世都て堪え、幾度悲しむ。
    烏鳥の乱れ啼き、人未だ遠からず、
    野風吹き散じて、棠梨白し。

  【我が儘勝手な私訳】
      寒食節の日、野原の光景
    古い墓地に新たな墳を築き、長い時間泣き悲しみ、
    世に生き延びる為、ひたすら堪え忍び、何度嘆き悲しんだことか。
    カラスや鳥は鳴き乱れ群れ飛んでいるが、それは人のすぐ近くであって、
    野原には春風が吹き舞っているけれども、リンゴやナシの花が美しく白い。

○中国の『百度百科』に、「李郢」項目は存在するけれども、さほど詳しいものではない。

      李郢
   李郢,字楚望,长安(今陕西西安)人。大中十年,第进士,官终侍御史。诗作多写景状物,风格以
  老练沉郁为主。代表作有《南池》、《阳春歌》、《茶山贡焙歌》、《园居》、《中元夜》、《晚泊
  松江驿》、《七夕》、《江亭晚望》、《孔雀》、《画鼓》、《晓井》等,其中以《南池》流传最广。
    中文名: 李郢     国籍: 中国唐代      出生地: 陕西西安
    职业: 官员,诗人      代表作品: 南池、阳春歌
  http://baike.baidu.com/view/16579.htm

○李郢の「寒食野望」詩のテーマが寒食節にあることは間違いない。それも詩人がわざわざ「寒食野望」と題してくれているのだから、それを無視することも出来ない。

○しかし、李郢が「寒食野望」詩で説くのは、単に、寒食節の日の野原の光景だけではない。李郢が「寒食野望」詩で説くのは、人の生き様であり、死に様でもある。加えて、人は自然とともに生きていることを説く。その自然とは烏であり鳥であり、野風であり棠梨花なのである。

○つまり、李郢の「寒食野望」詩が描く寒食節の一コマは、人生の一風景だと詩人は唱えるのである。なかなか詩人は大胆だし、且つ繊細でもある。そういう詩人の見方は新鮮で、多分、正しい。

○ちなみに、中国の『百度百科』が載せる「寒食野望」は、熊孺登のものであって、李郢の「寒食野望」詩ではない。

○蛇足ながら、隋の煬帝、楊広に「野望」詩があって、以前、訳している。
  ・書庫「痩西湖・个園」:ブログ『楊広:野望』
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/39239242.html

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