○清明節寒食節文学の68番目として、今回は孫昌胤の「清明」詩を案内したい。
【原文】
清明
孫昌胤
清明暮春裡
悵望北山陲
燧火開新焰
桐花發故枝
沈冥慚歲物
歡宴阻朋知
不及林間鳥
遷喬並羽儀
【書き下し文】
清明
孫昌胤
清明は暮春の裡に、
悵望す、北山の陲。
燧火は新焔を開き、
桐花は故枝に発す。
沈冥、歳物を慙ぢ、
歓宴、朋知を阻む。
林間の鳥に及ばず、
羽儀を併せて、遷喬す。
【我が儘勝手な私訳】
清明節の日、春の夕暮れ時に、
シルエットとなった北山の山の端をうらめしげに見やることである。
各家庭では、火打ち石で新しい火を起こして、
桐の木は、古い枝に新しい花を咲かせている。
あの世にあっては、新しいものなど何も無いし、
ご馳走を準備しても、亡くなった友が出て来るわけでもない。
到底、私たち人間は、森の中に棲む鳥にも及ばないだろう、
鳥たちは皆一斉に飛び立ち、高く遠く飛び去って帰って来ない。
○孫昌胤については、「百度百科」にも載せていないので、よく判らない。ただ、孫昌胤の「清明」詩を読む限り、孫昌胤が優れた詩人であることは間違いない。五言律詩の僅か四十字が描く世界が何とも深淵で広大なのに驚く。なかなかこうは描けない。
○詩人の魅力は、何と言っても人を驚かすことにある。空前絶後、全く新しい精神世界を詩人は垣間見せてくれる。この、孫昌胤の「清明」詩も、まさしくそうである。