○前回の曹松『客中立春』詩に引き続き、今回案内するのは、同じ曹松の『立春日』詩である。
・書庫「無題」:ブログ『曹松:客中立春』
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【原文】
立春日
曹松
春飲一杯酒
便吟春日詩
木梢寒未覺
地脈暖先知
鳥囀星沈後
山分雪薄時
賞心無處説
悵望曲江池
【書き下し文】
立春日
曹松
春は、一杯の酒を飲み、
便ち、春日の詩を吟ず。
木梢は、寒さを未だ覺えず、
地脈は、暖さを先に知る。
鳥は囀る、星沈の後、
山は分く、雪薄の時。
賞心は説く處無く、
悵望す、曲江の池。
【我が儘勝手な私訳】
立春のこの日は、何よりまず酒を一杯飲み、
取り敢えず、春日を祝う詩を一首作らなくてはなるまい。
梢上では、春風が吹いて、もう寒さも無いし、
地上では、雪が解け草が芽吹き、春の訪れを感じる。
春の鳥たちは、朝になると囀り始め、
山からは太陽が昇る、雪明かりの中から。
春を楽しむ気持ちは、どうしようもなく湧き出し、
恨めしげに、曲江の川面を眺めることである。
○流石、『己亥歳』詩を吟じた詩人だけあって、詩想が何とも心地よい。春とは何か。そう問われて、
春飲一杯酒 春は、一杯の酒を飲み、
便吟春日詩 便ち、春日の詩を吟ず。
と嘯く詩人は、間違いなく本物である。ついでに、『己亥歳』詩も紹介しておきたい。何と言っても、曹松の代表作と評される詩だから。
【原文】
己亥歳
曹松
澤國江山入戰圖
生民何計樂樵蘇
憑君莫話封侯事
一將功成萬骨枯
【書き下し文】
己亥の歳
曹松
沢国の江山、戦図に入る、
生民、何の計あってか樵蘇を楽しまん。
君に憑る、封侯の事を話ること莫かれ、
一将の功成りて、万骨枯る。
【我が儘勝手な私訳】
江南の水郷地域の山や河も、とうとう戦闘地域となってしまった。
一般の庶民たちは、どのようにして生計を立てていったらよいのだろうか。
あなたにお願いがある、どうか諸侯に封ぜられるということを語らないでほしい。
一人の将軍の武功がなることは、多くの兵卒の犠牲の上に成り立っているのだから。