○陳子昂の『薊丘覽古贈盧居士藏用七首(並序)』、『登幽州臺歌』詩と見てきているが、陳子昂には連作『感遇詩三十八首』と言う大作があると言う。とても全部を案内できるものではないが、その幾つかを紹介したい。
○今回は、陳子昂『感遇詩三十八首』詩の其の三を、案内したい。
【原文】
感遇詩三十八首:其三
陳子昂
蒼蒼丁零塞
今古緬荒途
亭堠何摧兀
暴骨無全軀
黃沙幕南起
白日隱西隅
漢甲三十萬
曾以事匈奴
但見沙場死
誰憐塞上孤
【書き下し文】
感遇詩三十八首:其三
陳子昂
蒼蒼たる丁零の塞、
今古なる緬荒の途。
亭堠の何ぞ摧兀たらんや、
暴骨に全軀なるもの無し。
黃沙は南起して幕し、
白日は西隅に隱る。
漢甲は三十萬、
曾て以て匈奴を事とす。
但だ沙場の死を見るのみにして、
誰か塞上の孤を憐れまん。
【我が儘勝手な私訳】
青色に遠望される匈奴丁零族の砦、
昔から今に至るまで続く、細くて荒れた道。
亭堠の堡壘の何と險峻であることか、それなのに、
砂漠に曝された人骨に完全なものは一つも無い。
黄砂は南の砂漠に起こり、砂漠中を包み込み、
結果、太陽は西の彼方へと沈んで行く。
漢軍は三十萬人にも及んだが、
嘗てここで匈奴と戦った。
ただ、砂漠で死ぬことだけが問題とされて、
誰が兵士の砦での悲惨な生活など、憐れんでくれようか。
○陳子昂の『感遇詩三十八首』詩も、其三になって、ようやく、本論に入りつつある。陳子昂が感遇するところは、辺塞の世界ではないか。そういうものが其三詩には垣間見えてくる。ただ、それが本当にそうなのかは、まだ読み進めないと判断できない。