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杜甫:登岳陽楼

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○岳陽楼に関する文学作品は多い。「岳陽楼」と題する詩として、中国の検索エンジン百度の百度百科は劉長卿の「岳陽樓」と楊基の「岳陽樓」を案内している。同じように、中国の検索エンジン百度の百度百科は、「登岳陽楼」と題して、杜甫の五言律詩と、陳与義の七言律詩、蕭藻の五言律詩を紹介する。

○杜甫「登岳陽楼」は、誰もが知る漢詩の代表的作品である。本ブログで岳陽楼を紹介する際に、すでに作品そのものも案内済みである。
  ・書庫「岳陽・武昌」:ブログ『岳陽楼』
  http://blogs.yahoo.co.jp/yan1123jp/38067128.html

○杜甫「登岳陽楼」詩の口語訳は、いろんな方が訳されている。私訳を含めて、原文・書き下し文を案内したい。

  【原文】
     登岳陽楼  杜甫
    昔聞洞庭湖
    今上岳陽楼
    呉楚東南圻
    乾坤日夜浮
    親朋無一字
    老病有孤舟
    戎馬関山北
    憑軒涕泗流

  【書き下し文】
     岳陽楼に登る  杜甫
    昔聞く 洞庭の水
    今上る 岳陽楼
    呉楚 東南に圻け
    乾坤 日夜 浮かぶ
    親朋 一字無く
    老病 孤舟有り
    戎馬 関山の北
    軒に憑りて 涕泗流る

  【我が儘勝手な私訳】
    前々から幾度となく、洞庭湖の評判は聞いていた。
    その洞庭湖を望む為に、今、岳陽楼を上っている。
    その岳陽楼に上ると、洞庭湖が呉国と楚国を東南に切り裂き、
    天地が日夜、洞庭湖に浮かんでいるのを理解する。
    私には、親戚や友人からの手紙も長く途絶えたままで、
    身には老と病が押し寄せ、わずかに一艘の小舟があるだけである。
    北の都長安辺りでは未だに戦争が続いていると言うのを聞くと、
    私はこの岳陽楼の欄干にもたれて、ただ涙を流すしかないのだ。

○杜甫「登岳陽楼」詩について、私がとやかく言う前に、中国の検索エンジン百度の百度百科が載せる評価を案内したい。

      杜甫五言律诗:登岳阳楼
   诗圣杜甫创作的五言律诗《登岳阳楼》被誉为古今“登楼第一诗”,诗篇表现了杜甫得偿多年夙愿,
  即登楼赏美景,同时仍牵挂着国家的百感交集之情,表达了报国无门的哀伤。

○別に、中国の検索エンジン百度で検索すると、「中华诗词论坛:水吞三楚白,山接九嶷青——求不是斋诗话之《洞庭湖》篇」と言うHPがヒットした。それには、次のようにある。

   岳阳楼位于洞庭湖南岸岳阳市境,与武昌黄鹤楼、南昌滕王阁并称“江南三大名楼”。古贤登临吟咏
  之作颇多,其中以杜少陵《登岳阳楼》一律最为有名:
    昔闻洞庭水,今上岳阳楼。
    吴楚东南坼,乾坤日夜浮。
    亲朋无一字,老病有孤舟。
    戎马关山北,凭轩涕泗流。
  此为诗人暮年流寓湖南时所作,身世之悲,家国之痛,尽寓于登楼一啸之中。被后人誉为“五言绝唱”。

○杜甫「登岳陽楼」詩について、百度百科の、
  ・同时仍牵挂着国家的百感交集之情,表达了报国无门的哀伤
と言う表現は、甚だ気になる。それは日本語の「国家」と、中国語の「国家」とでは、随分意味が異なることに起因しているのであろう。ここでの「国家」は故郷であり、「报国无门的哀伤」とは望郷の念だと思われる。やはり、杜甫「登岳陽楼」詩は、岳陽楼を詠った最高の詩であることは間違いない。

○ただ、作詩の観点からすれば、杜甫は随分、岳陽楼に素っ気ない。他の詩人と違って、杜甫は朗々と岳陽楼を詠じないのである。杜甫にとって、岳陽楼は偶然の場所に過ぎない。ある意味、それは何処でもよかったのである。

○それに、杜甫は極めて女々しい。「亲朋无一字」ことを嘆き、「老病有孤舟」ことを嘆き、「戎马关山北」ことを嘆き、岳陽楼で悲嘆の涙を流しているに過ぎない。

○本来、詩は、そういう心情を達観するところにあった。少なくとも、中国の伝統的詩はそうである。詩が人間の心情をそのまま詠うことはなかった。それが詩であった。

○神讃えの詩が初めて人のものになったと言えば、聞こえは良いが、人のものに成り下がったと言うのが真実ではないか。杜甫以降、神の声を誰も聞かなくなった。Friedrich Wilhelm Nietzscheに言わせると、
  Gott ist todt!
なのである。中国では随分昔に神は死んでいる。

○岳陽楼に関する詩を読み続けているうちに、そういうことを感じた。

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